それから島に戻ってあてもなく探しまわったけれど、コックは見つからなかった。
時間が時間だけに開いている店が限られていたから酒屋や遅くまで営業しているカフェ、パブの類をしらみつぶしに当たってみたが、あの目立つ金髪は発見できなかった。
もしかしてもう既に宿に引っこんでいるのかもしれないと思い、そうなったらもうお手上げだなと一軒のうらびれたバーをくぐったところ。
酔っぱらいでひしめく店内の奥に、見知った姿をようやく発見した。
「おいクソコック」と呼びかけようとして、しかしそうしなかったのは、奴に相客がいたからだ。
カウンターにもたれかかるようにして上半身のバランスを保っている奴はかなり飲んだのだろう、時折ぐらぐらと揺れている。その隣に座っている男はいやに親密な感じで、息がかかるほどの距離で話をしたり、さりげなさを装ってコックの腕に触れたりしている。
ほんのすこしの間観察しただけで状況が飲み込めた。
酒が弱いくせにそれを弁えないで酒をあおったコックのところに「隣いいかな」と声をかけたのがあの見知らぬ男で。酒が入るとこちらに対する愚痴を垂れ流しにするコックに、適当な相槌を打ちながらスキンシップをはかっているのだ。あわよくばお持ち帰りしようと目論んで。
まあありがちな展開だし、いつもなら途中で酔いのさめたコックに不埒な輩は蹴り飛ばされて終了なのだが、このときは少々勝手が違った。
次第に大胆になってきた男は、あろうことかコックの細い腰に腕をまわし、いやらしい手つきで奴の上から撫でさすっていた。さすがにここまでされて抵抗しないのはおかしいと不審がっていると、とろんとした目つきでコックが相手に微笑んでいた。
あー薬盛られやがったな、と合点がいく。しかも催眠系のではなく媚薬系のものを。
あれは火照った身体を持て余しているときのコックの顔だ。
幸いなことにあの状態でも行きずりの男に身を任せるつもりはないらしく、過度なスキンシップをされてもじもじと、困ったように眉尻をさげている。
アホな野郎だ、と思った。
麦わらの一味の双璧を担っているくせに、敵意を持っていない相手に対する警戒心がやたらと薄い。おそらくある程度酔っぱらったところに声をかけられて、それから薬を混入されたのだろうが、それにしても迂闊すぎる。
酒場の喧騒に紛れて、コックも鼻の下をでれでれと伸ばした野郎も、おれが背後に忍び寄っていることに気づかない。
目障りな男は一撃で床に沈めた。突然登場したおれに驚きながらも、コックはぶちのめされた野郎を気遣う素振りをみせる。アホ、そいつはてめェに妙なもん飲ませた奴だぞ。
そう暴露してしまう以前に、おれはコックの襟元を掴んでいた。
おいアホ、どういうこった?と自分でも驚くほど低い声が出た。
それはクルーの料理人兼戦闘員がこんな安易な手にひっかかってよその誰かにヤられかけたことへの、苛立ちがあったのかもしれない。
なのにコックはこちらのそんな気持ちなどおかまいなしに、「ロビンちゃんが船番代わってくれて……」とへらへらしている。
こいつはどうしようもねェな、と思った。
こうなったら、こういう状況でどんな目に遭うのか体に覚えさせてやらなければいけない。
軽い体を担ぎあげ、上の部屋が空いているかを確認する。カウンター内のオヤジが、紙幣と引き換えに部屋の鍵を渡してきた。
おいちょっと、と肩の上で多少の抵抗を試みるコックにかまわず、急な造りの階段をあがる。
「いきなり何だってんだ、おいゾロ。あいつはおれと一緒に飲んでただけで……」
まだあの不埒な野郎のことを話題にするコックの両腕を縛り、ベッドの端にくくりつける。
「ちょっ何すんだゾロ」と慌てるその口を塞ぎ、シャツの前を裂いた。
ボタンがはじけ飛び、ベッドのしたにまで転がり落ちる。目をむいたコックのスラックスを下着ごと膝下までおろし、うつ伏せにひっくりかえす。
腹巻きの中にはあの不思議なジイさんから貰ったブツがある。紙袋の中をベッドにぶちまけると、潤滑用らしきジェルチューブが転がりでた。それをコックの尻付近にどろりとなすりつけ、同じく転がり出てきた性器のおもちゃを奥の窄まりにずぶりと突き刺す。
ろくに解れていないから当然入らない。ジェルを更に追加して、強引にねじこむ。
当然コックからは呻きが漏れる。それを無視して、左右に揺すぶってじりじりと侵入させた。暴れる肩を押さえつけ、血管の筋まで精巧に模してある棒をぎりぎりの位置まで挿入する。
コックは背骨を中心にびっしりと汗をかく。ブルーの無地のシャツだったから、汗を吸った部分が濃い色に変色していた。
「いっ……てェなクソ……」
シャツもネクタイもつけたまま、臀部だけ露にされて道具を突っこまれているコックは、なかなかに倒錯的だった。
涙をほろほろとこぼしこちらを睨みあげてくるその表情は、ちょっとこれまで見たことがないほどそそる。
あーこいつ海軍に捕まったら絶対性的拷問受けるタイプだなと確信し、コックの両足首に手錠をかけた。これもあの例のジイさんのプレゼントにあった。囚人に使用するものと比べて若干作りが甘いが、簡単には外れないぐらいの強度はある。
屈辱的なのか、コックの顔が歪む。しかしそれは怒りによるものでないことは、彼の下半身の状態を見れば明らかだ。
このような状況にもかかわらず、白い性器は芯をもっていた。
横倒しにしたコックのそこに、これまたジイさんが寄越したペニスバンドをはめる。青い目が驚愕に見開かれた。
これまで自分達はどちらかといえば激しい部類のセックスをしてきたが、道具を使ったことはなかった。特に興味もなかったし、そんなものに金を出すくらいなら酒の一本でも余計に買いたかったからだ。
そしていくら無料だからといって、こんなことにならなければこれらの道具類を使用するつもりもなかった。
だが残念なことに、条件と必要性が重なってしまったのだ。
バイブのスイッチをオンにする。コックからくぐもった悲鳴があがった。強度を最大にすると、痩身が海老のように反りかえった。あまり騒がれると苦情で中断されるので、黒いバンダナを猿轡代わりに巻きつける。スイッチの強度を弱くし、卵型のローターを左右の乳首にガムテープで張りつけた。
ちょっと待て、みたいな表情をしたコックは乳首の感度がすこぶるいい。ヤってる最中に舐めたり甘噛みしてやると、咥えこんでいる部分がきゅっと締まる。
ローターのスイッチを入れ、バイブの強度を最大に戻した。
「んうううう!!」
びくびくと痙攣するコックの性器から、透明な先走りがこぼれる。この状態でイキそうになるとは媚薬効果絶大だ。
悶えつつもこちらに縋るような視線をよこすコックの臀部に手をかけ、バイブの位置を調節する。ちょうど前立腺に当たったらしく、痙攣がますますひどくなった。
自分が発見したからよかったようなものの、運悪くあのままお持ち帰りされていたとしたら、このような目に遭ったかもしれない。いやもっと非道な、輪姦すらも生ぬるい責めを受けたかもしれない。
「おいコック、てめェは運がよかった」
「んうっうっ!」
「薬を混入させる輩ってのは厄介だからな。たまたまおれが通りかかったからよかったようなものの……聞いてねェな」
しょうがねェなと呟いて、立ちあがる。コックのあられもない痴態を眺めていたらこちらも激しく勃起してしまったのは、修行不足としか言いようがない。
心頭滅却、と頬を叩いて便所に向かう背後で、無機質なバイブレーター音が響いた。
心頭滅却を念じていたらいつの間にか眠ってしまい、夜明け近くに目が覚めた。
相変わらず無機質な音は続いていて、傍らのベッドを見ると半死半生といった感じのコックがぐったりと、しかし時折びくりと痙攣する姿を認める。
何時間も道具に責められた彼の全身はぐっしょりと濡れ、脱水症状を起こしていた。
これはマズいとローターとバイブのスイッチを切り、ミネラルウォーターを飲ませる。ペニスバンドを外してやれば、せき止められていた精液がごぷごぷと噴出した。
それきり意識を手放したコックの痩身を横たえ、バイブレーターを抜く。どろりとした液体が絡みついているのは大量に使用したジェルのせいだろう。ひくつく肉色の穴が自分を誘っているようで下半身に血が集まったが、ここで犯せばコックに一生口をきいてもらえないかもしれないと踏みとどまった。さすがにやりすぎた自覚はあったのだ。
* * * * *
あの安宿での一件で、コックのこちらに対する態度が変わったかといえば、そうでもない。相変わらず何かにつけて難癖をつけてきやがるし、喧嘩も日常茶飯事だ。
ただ、ふとしたときに物思いに沈んでいるところを見かけるようになった。あの、底抜けにアホな奴が。
らしくねェなとからかうこともできたが、そんなことをすればずっと続いてきた夜の関係も終わってしまう予感がした。
こちらが「おい今夜いいか」と尋ねれば、コックは断らない。肌を重ねれば気持ちよさげに喘ぐ。けれど、時々憂鬱な表情をしている理由を尋ねることはできない。
体だけの仲と割り切ってしまえば楽だったろう。しかし長い航海を経て仲間として、いやそれでけでは片づけられない感情をコックに抱いていることに気づいてしまった。
コックてめェ、何悩んでやがる。この問いかけをしたとして、あの強情な男が口を割る筈がない。
いっそセックスの終盤の朦朧としているときに問いかけてみようとも考えたが、答えてくれなければ結構ショックがでかいなと、らしくもなく二の足を踏んでいた。
そんなときだった。
真夜中のダイニングでコックとウソップの会話を聞いたのは。
「間違っても大事な相手にそんな真似はできねェだろ?」とコックはウソップに訴えていた。戸惑いがちな反応をする狙撃手に、じゃあてめェあのお嬢様に●●ブ突っ込んで朝まで放置ってできるのかよ!と詰め寄っているので、おいおい、と思い金色の頭を風呂あがりのタオルで軽くはたく。んだよ、と不機嫌にこちらを向いたその目は完全に酔っぱらいのそれだ。
相談という名のとんでもない告白大会につきあわされたウソップにすまんなと謝り、ぎゃー犯されるーと真夜中に喚く迷惑な泥酔者の鳩尾を殴って気絶させ、格納庫に隔離した。
またぎゃあぎゃあ騒がれると困るので、とりあえず手首を縛った。ついでに服も脱がせておく。
これは決して強姦の意図があった訳ではなく、コックと話をしたかったからだ。裸に剥いておけば簡単には逃げられないだろうとの計算があった。
しかし意識を取り戻したコックはこちらの思惑を誤解して、開口一番「強姦魔」などと叫びやがった。
その言い草にむかっ腹がたったのでつい、「このアホコックが」とこちらも喧嘩腰になってしまう。
「お前は飲むと無防備だ」「他の野郎と二人きりになるな」「酒が飲みてェときはおれを誘え」とまくしたてると、コックはぽかんとしていた。それからじわじわと耳たぶを赤くして「な……んだよそれってまるで……」と語尾を濁す。
まるで何だってんだ? コックの赤くなった耳たぶを噛めば、全身からくたりと力が抜ける。
首筋に顔を埋めてべろべろと舐めると、あ、あ、と可愛らしい声があがる。
この凶悪コックがこんな声を出すなんて、クルーの誰も想像もつかない筈だ。
ここのところ物思いに沈んでやがったのはあの宿での出来事が原因なのか?とか、ウソップに故郷の幼馴染を引き合いに出してまで確認したかったのは何なんだ?とか、もはや尋ねる必要性もない気がして、白い肌に情交のしるしをつけていった。
あーよく寝た。天気がいいとつい長時間昼寝しちまう。さて鍛錬でもするか。
あ、コックがこっち見てやがる。今日もふわふわしてんなあいつ。すげー見てるけど用でもあるのか?
みかん畑を飛び降りて階段を駆け上がると、びっくりしたようなコックの顔が飛びこんでくる。
「何か用か」
「は?」
わざわざ訪ねてきてやったというのに、コックはつれない態度をとりやがった。意趣返しのつもりで白い頬に口づけてやる。よし赤くなった。
「クソマリモ」と声が追いかけてきたので、わざと不機嫌に返事してやる。そうなるとコックの表情は途端に不安げだ。
じらすつもりはなかったので、唇を重ねて腰を抱く。コックはあわあわと人目を気にして身をよじる。ナミが甲板にいないのは確認済みで、ルフィとチョッパーは遊んでいたら海に落っこちて男部屋のベッドでぐったり。それ以外の連中は目撃したとしても見なかったことにしてくれるだろう。
「最悪」とコックが言い放つ。
それって海賊には褒め言葉にしかならねェぜ、とこっそり笑う。
まったくしょうがねェ強情張りだよな、このクソコックは。