「ナミさんロビンちゃんご苦労さま〜vお昼だよホー。おい野郎共メシだ!」
かっぽう着を着たサンジが女尊男卑の号令をかける。うおお!と歓声があがった。
「メッシー!」
うず高く積まれたおにぎりの山に瞬時に手を伸ばしてきたのはもちろん船長で、本体の見えないゴムの腕をサンジはつねる。
「コラ汚ェ手で食うんじゃねェ。洗ってこい」
「ちぇー」
残念そうに舌打ちしたルフィは腕をしゅるんと元に戻す。船尾のほうに完全に消える前にばたばたと足音をたてる彼は、食事の時間のだいぶ前から腹をすかせていた。
「ったく」
甲板の芝生にセッティングしたテーブルの脇に、サンジはパラソルを立てる。もちろんこれは美女二人のためのものだ。
「飯か」
あくびをしながら現れた男がどうやら一番乗りのようだ。
「コラてめェ、手は洗ったのか」
「ああ。ちょうど雑巾を洗ってるところだった」
「……石鹸できれいにしてきたんだろうな」
「そう言うだろうと思って爪の間も洗ったぜ、ほら」
どうだと言わんばかりに両手をかざすゾロの皮膚は、わずかにふやけていた。故郷では毎日道場の床拭きをしていたと威張るから雑巾専門にさせたのだが、どうやら真面目に掃除していたようだ。
「よしご苦労。ナミさんとロビンちゃんが来るまで……って、食ってんじゃねェ!」
「ん?」
注意するも遅くゾロの頬がふくらんでいる。もぐもぐと咀嚼して飲みこんだ彼は、残り半分になったおにぎりを口に放りこんだ。
「お前、な……」
席にもつかず食事を始めた行儀の悪さに、サンジは呆れる。まったくこの男は、普段はクルーが揃うまで待つことができるくせに、おにぎりを前にすると抑えがきかない。
「何だよ、イタダキマスは言ったぞ。それに大掃除のときはこうやって食うもんだろうが」
非難の目を心外とばかりに睨みかえしたゾロは、もうひとつを手に取った。
「パンの耳んときは文句言わなかったじゃねえか、テメェ」
「あれはサンドイッチの余りだったからな」
「それと同じだ。こういうもんを行儀よく食ってもうまくねえだろ」
「そういう問題じゃ……」
その先を言おうとしてサンジはまあいいか、と肩をすくめる。おそらくこれは海獣の肉よりも好物、いや特別な食べ物なのだろう。将来ミホークを倒し世界一になったあかつきには『おにぎり大剣豪』の称号でも与えてやろうか、と密かに思った。