桃色キャンディ

 あーうぜェうぜェ、とサンジは思った。髭の剃り跡も青々とした連中が輪になって喋っている。話している内容は過去の恋バナだったり新作のドレスについてだったり、それらをストロベリートークと称しているから手に負えない。
「そんなところにいないで、サンディもこっち来なさいよぅ」
 オカマのひとりがこちらに誘いをかける。なにが『よぅ』だ、と彼は煙草をスパスパふかす。
「やだそんなに吸ったらお肌にも悪いし、第一いい赤ちゃんが産めないわよ」
 もっと腹から出しやがれと言ってやりたいほどのダミ声に、サンジの眉がひそめられた。
「アホか。おれが子供産めるかよ」
「あら、アンタイワさまを知らないからそんな事言うのよ」
 ねー、とオカマ同士で頷き合っているその結託内容も、やたらと話題にのぼる伝説の女王とやらもどうでもいい。早くここを逃げ出して仲間のところに戻らねェと、と煙草を携帯灰皿でもみ消し(ここらへんはきっちりしている)、あの変態の代表みたいな女王代理との決闘を思いかえす。
 あのときはどうかしていた。きっと知らぬうちに麻薬でも嗅がされていたのだろう。でなければ、あんな下着ごときでオタオタする筈がなかった。
「やーねサンディったら、パンツ見られて恥じらったあの純情可憐さはどこに行ったのかしら?」
「そーそー、あのときはかわいかったわぁ」
「……言うんじゃねェ」
 低くサンジは唸る。まさか「長い間クソお世話になりました」を凌ぐ他人から言われてこっぱずかしい場面ができるとは。
なんとなくジジイごめんと申し訳ない気持ちになった彼は、ワンピースの裾から伸びる長い足を見つめる。
 たしかに曲線美といえなくもない。が、立派なすね毛を誇るこの足を晒して乙女もないだろう。
 はあああ、と何度目かのため息をついたサンジに、ため息をつくと幸せが逃げるわよ、とマリアンヌが助言をした。
「……うっせェ」
 ヤンキー座りで睨んだサンジを、きゃあこわーいとオカマ達が囃したてる。
「ねえサンディは気になる男子とかいたの?」
「あーんそれ聞きたーい」
「いたのお?」
「いたんでしょ?」
「………」
 ケツ顎や巨顔にぐいぐい迫られ、全員まとめて蹴り飛ばしたい衝動をおさえる。ここは彼らの楽園で、ここに来たということは『そう』だと思われても仕方ないのだ。しかもこいつら信じられない程手強い。
「……いねェよ。いてたまるか」
「あーん嘘嘘、いたんでしょ? いたって顔に書いてあるわ」
「ね、ね、どんな男子? かっこいい?」
「だあああ! しつけェな! ムカつく奴はいたけどな、気になる野郎なんているかぁ!」
「あら」
 そこで顔を見合わせた乙女(の心をもったオカマ)たちは、意味ありげにくすくすと笑う。
「な、なんだよ気色悪ィな……」
 妙に「分かるわぁ」という視線を寄こされ、サンジはむずがゆい気分になる。
「おい、何だってんだよ」
「サンディ、それは恋よ」
 お嬢様風パーマで決めたミレーヌが、皆を代表してびしっ!と指摘した。はあ?とサンジは間抜けな声をあげる。
「あの腹巻に? 冗談じゃねェ。あいつは大メシ喰らいのくせ寝てばっかで役に立たねェし、致命的な迷子野郎だぜ。島に着くと鍛冶屋の場所がわからねェって迷いやがって、市場でうろうろしてるからいつもおれが連れてってやるんだ。そんなときは荷物持ちを買って出るからまあ、たまには使えるっちゃ使えるけどな」
 それを聞いてきゃー!と叫んだ彼女たちは、興奮しきって鼻息秒速5メートルだ。
「それってどちらとも超絶片想い、みたいな?」
「その彼氏もサンディに会いたくてわざとうろついてる、みたいな?」
「両想いなのにじれったい二人、みたいな?」
「いやーん、甘酸っぱァァい」
「サンディ、ファ・イ・ト!」
 ぐっと親指をたててエールを送られ、脱力したサンジは砂浜に視線を落とした。